放射線防護技術編
獣医診療現場における放射線防護の実際
3. 放射線防護に関する量と単位 参考ムービーはこちら

 放射線による人体影響は、放射線の種類、エネルギーや放射線の量に左右されます。したがって、それら放射線による人体影響を正しく測定・評価する必要があります。

 放射線の量を表わす単位は3つのカテゴリーに分けて定義されています。1. 放射線そのものの数(粒子フルーエンス(cm-2))、2. 放射線の物質との相互作用の結果としての量(照射線量、吸収線量、カーマ)、3. 生物に与える影響を考慮した量(等価線量、実効線量、1cm 線量当量)などです。ここでは、3. の放射線防護に関する量について述べます。

(1)等価線量

 放射線による人への影響は、組織・臓器に吸収されるエネルギー(吸収線量)だけでなく、放射線の種類(α線、β線、X線、γ線又は中性子線)によって差があります。そのため、放射線の種類による人体影響の重みを放射線荷重係数(ωR)として値付けをし、その値を組織・臓器の平均吸収線量(Gy)に掛けて、種類の異なる放射線が人体に与える影響を同じ尺度で評価します。この値を等価線量(HT)と呼び、HT=Gy×ωRにより求められ、単位はシーベルト(Sv)を用います。X線やγ線の放射線荷重係数は1です。したがって、X線やγ線による等価線量は、吸収線量と等しい量となります。

 わが国の放射線障害防止関連法令では、眼の水晶体と皮膚に対する年間の等価線量限度を規定しており、それぞれ150mSv、500mSvと規定しています。また、妊娠中の女性の腹部についての等価線量限度を2mSv と定めています。

(2)実効線量

 一方、身体における臓器・組織の放射線による影響は、放射線に対する感受性が高いほど強く現れます。各組織・臓器の放射線誘発癌や遺伝的影響を推し測るため、組織・臓器の放射線感受性に応じた係数を、組織荷重係数(ωT)(表2)とし、その値を等価線量に掛けて、臓器・組織の感受性を同じ尺度で評価したのが実効線量です。全組織・臓器の被ばく線量の合計を実効線量(HE)と呼び、HE=ΣωT×HTで求められ、単位はSvが用いられます。

 組織荷重係数は表2に示したように、すべての臓器・組織の値を加えると1になるように割り当てられています。つまり、全身を均一に被ばくした場合には、等価線量の合計と実効線量が等しくなります。実効線量は、放射線による確率的影響(放射線の閾値がないとする場合の影響)を評価する量ですが、人体が受ける放射線の量を直接表わす場合と、作業環境中の放射線の量を表わす場合の2通りに用いられます。

 実効線量の限度値は、1. 5年ごとに区分した各期間につき100mSv、2. 4月1日を始期とする1年間に50mSv、2. 女子については、1. 及び2. のほか、4月1日、7月1日、10月1日、1月1日を始期とする各3月間に付き5mSv、4. 妊娠中である女子については、1. 及び2. のほか、本人の申し出等により使用者等が妊娠の事実を知ったときから出産までの期間に付き、内部被ばくについて1mSv とされています。

表2 組織荷重係数
表2 組織荷重係数

(3)1cm(70μm)線量当量

 等価線量や実効線量を正しく評価するには、組織・臓器ごとの吸収線量を測定しなければなりません。実際上、それらを直接測定することは困難です。そのため、ICRU(国際放射線単位・測定委員会)は、人体の組成に模した直径30cm のICRU 球(酸素76.2%、水素10.1%、炭素11.1%、窒素2.6%)に照射した時の表面から1cm、あるいは70μm の位置における線 量当量を求めて、換算係数を示しました。これによって、測定値から等価線量や実効線量を実用的レベルで求めることが可能となります。1cm線量当量は外部被ばくによる実効線量の評価に、70μm 線量当量は外部被ばくによる皮膚の等価線量の評価に用います。これらの線量当量は、放射線の種類とエネルギーから一定の換算係数を用いて求めます。


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