1 X線の発生原理とX線の性質
(2)X 線発生の原理
図4は、固定陽極X 線管と呼ばれるもので、銅でできた陽極にタングステンのターゲットが埋め込まれています。陰極にはタングステンのフィラメントが設置されていて、全体は真空のガラス管です。
陰極フィラメントに電流を流して加熱しておき、陽極と陰極に高電圧をかけると、フィラメントから出てきたマイナスの熱電子は陽極に高速でぶつかり、そこからX 線が発生します。
この時に陽極と陰極の間にかけた電圧を管電圧(V)、電流を管電流(I)と言います。通常、管電圧はkV(キロボルト)、管電流はmA(ミリアンペア)で表わします。
陽極に引き寄せられた熱電子は、陽極の材料(一般にタングステン)の原子核に引き寄せられ、急激に方向を変えられます。
車に例えれば、急にブレーキをかけてハンドルを切るのと同じであり、ブレーキやタイヤから音や熱のエネルギーが出るのと同様に、ブレーキをかけられた電子は、エネルギーを外に出すことになります。
このエネルギーの大部分は熱になるため、陽極は高温になりますが、一部のエネルギーは、X 線として外に出てきます。これをブレーキによるX 線という意味で、制動X 線(図5)と呼びます。
制動X 線は、管電圧によって原子核と引き合う力が違うため、X 線強度分布が異なります。当然管電圧が高いほど制動力が大きいのでX 線強度が高くなります。また、電子が原子核のどこを通るかによってもX 線強度は異なります。どこでも通る可能性がある以上、エネルギー分布は連続スペクトルになります。さらに、電子の通るパターン、X 線強度は管電圧毎に異なるため、管電圧毎にスペクトルパターンが異なります。原子核の最も近くを通るときに制動力が一番強くなるので、そこで連続スペクトルの最短波長が終わっています。
熱電子は、原子核の近くを通ることにより、制動X 線を発生させる一方、一部の熱電子は原子核のまわりの電子にぶつかることもあります。
ぶつけられた電子はエネルギーをもらって一つ外側の電子軌道に上がりますが、そのままでは不安定なので元の電子軌道に戻ろうとします。このとき、もらったエネルギーをX 線として外へ出します。このときに発生するX 線は、電子軌道のエネルギー差(階段の段差)だけのX 線(特性X 線)(図6)なので、その元素が持つ特定のエネルギー(波長)だけが出てくる単一波長のエネルギー、線スペクトルとして見ることができます。
(注):図6の電子軌道模式図では、制動X 線より電子にぶつかる特性X 線が多く出そうに見えますが、実際には、原子核と電子の間は隙間が多いスカスカの状態であり、電子にぶつかって生じる特性X 線より、制動X 線の方がはるかに多く出てきます。
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