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T 馬における骨シンチグラフィー検査の有用性
馬で多くの割合を占める運動器疾患の診断には、主にX 線診断法が用いられています。X 線診断法はX
線の組織透過性を利用して組織ごとの透過度の違いを画像化するもので、骨の形態を詳細に観察できるため、
骨折や骨膜炎の診断法として欠くことのできないものとなっています。しかし、このX 線診断法や近年、
主に軟部組織を対象に実施されるようになった超音波診断法、さらには原因領域の特定に有用な診断麻酔法
を用いても、確定診断ができない症例が多数存在します(図1)。これは形態的な変化を認めない骨疾患
(例えば、微細骨折や明らかな骨の離開がない骨折)や、体の厚みが大きいことにより、X 線検査が適用で
きない部位があることも一因です。
一方、欧米の獣医療では20年以上も前から骨シンチグラフィー検査法が馬の運動器疾患(跛行)診断法
の一つとして応用され、X 線検査や超音波検査と同様に主要な診断方法となっています。本検査法は、形態
学的な変化を観察するX 線検査とは異なり、放射性同位元素を用いて骨の代謝を描出することができるの
で、X 線検査では検出できない骨異常(微細骨折など)や診断可能な写真を得ることが難しい部位の骨(骨盤や大腿骨等)が観察可能です。
X 線写真では骨に30〜50% の脱石灰化がなければ異常所見として捉える
ことができませんが、骨シンチグラフィーではわずかな変化でも異常像として描出されるのです(図2)。
このように、骨シンチグラフィーは馬の運動器疾患の診断精度をさらに向上させる可能性がある検査法で
あり、馬の臨床獣医師にとって非常に期待できる検査法ですが、これまで日本においては、獣医師の放射性
医薬品の取り扱いに関する規定が存在しなかったため、実施できませんでした。しかし今回、獣医療法施行
規則が改正され、獣医師も放射性医薬品を使用した核医学診断が実施できるようになります。数ある核医学
検査法の中で、犬・猫では99mTcを用いた各種シンチグラフィー検査と18F−FDG を用いたPET 検査、馬で
は99mTcを用いた骨シンチグラフィー検査に限定されますが、これらの検査法は日本の獣医医療の診断技術
レベルを大きく向上させるものと期待されています。
ただし、本検査法では放射性同位元素を取り扱うことから、放射線に関する十分な知識や社会的責任が要
求されます。新しい獣医療法施行規則では様々な規制が設けられていますので、その概要から解説します。
U 骨シンチグラフィー検査法の原理
本検査法では放射性同位元素として99mTcを用います。放射線の種類には電磁放射線であるX 線、ガンマ線と粒子線であるアルファ線、ベータ線、中性子線、陽子線がありますが、本法で用いる99mTcからはガンマ線が放出されます。
ガンマ線はX 線と同様、粒子ではなく電磁波の一つで、透過力が非常に高い放射線です。X 線は電子を対極陰(タングステンやモリブデン)に照射し、その物質内の電子を弾き飛ばすことで電子遷移(移動)が生じて発生しますが、ガンマ線は原子核内のエネルギー不均衡により原子核から直接発生します。一方、粒子線であるアルファ線はアルファ粒子(陽子2個+中性子2個)の流れであり、これは不安定な核がアルファ崩壊することで放出されますが、透過力は小さく紙や数ミリの空気で遮断されてしまいます。また、ベータ線は
負の電荷を持った電子の流れであり、主に陽子が中性子、逆に中性子が陽子になる際に放出され、透
過力は数ミリのアルミニウム板で遮断できます。
99mTcは半減期が6.02時間と短く、動物や放射線診療従事者の被爆および環境への影響を最小限度にとど
めることができるので、骨をはじめとした様々なシンチグラフィー検査に用いられています。
馬の骨シンチグラフィー検査で用いられる放射性医薬品は、人と同様99mTc-methylene diphosphonate(99mTc-
MDP)です。99mTc に結合するMDP は骨の無機基質である結晶(ハイドロキシアパタイト結晶)と結合す
るため骨との親和性をもち、骨異常に対する感度が高いとされています。この薬剤を静脈内投与すると、MDP
の特性により骨に集積してガンマ線を放出するので、これをガンマカメラで検出し解析することにより画像
を得ることができます。骨損傷等によるリモデリング(いわゆる骨の再構築)が旺盛な部位には多くのTc-
MDP が集積するため、“ホットスポット”と呼ばれる異常集積像により異常部位として認識されます(図3)。
骨シンチグラフィー検査では薬剤の分布状態により3つの相に分けられます。第1相は投与直後に血管が、
第2相は投与1から10分後に軟部組織が、第3相は投与後3から4時間に骨がそれぞれ観察できます(図
4)。したがって、骨を観察するには、検査を実施する少なくとも3時間前に放射性薬剤を投与する必要があ
ります。
このように、骨シンチグラフィー検査法は骨異常を高感度で検出し、さらにwhole body scan が可能とな
る、という利点を持っています。しかし、分解能が低く、形態的な変化を詳細に観察する場合はX 線検査
のほうが優れていますので、骨シンチグラフィー検査法は機能・代謝画像を得る手法だと考え、両検査法の
利点を考慮し使い分ける必要があります(図5、6)。
V 馬における骨シンチグラフィー検査法の適応例
- 原因部位を特定できない跛行
- 診断麻酔で原因部位を特定できたが、X 線検査および超音波検査で異常所見が認められない跛行
- X 線写真上での変化が認められない骨折が疑われた場合
- 近位部に原因が存在する跛行(骨盤骨折が疑われる場合)
- 骨髄炎、感染性関節炎が疑われる場合
- 複数肢の跛行
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