放射線防護技術編
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参考資料
5. 事故等の発生に伴う措置

1 核医学

(1)法令体系

    1)法令改正の経緯

       従来の獣医療法施行規則では、放射線診療に関しエックス線装置に対する装置の届出、構造設備の基準、実施上の遵守事項等が定められていたのみであった。放射性医薬品については放射線障害防止法の規制からは除かれているが、獣医療法においては放射線障害防止に関する技術的基準が定められていなかった。そのため現実的に獣医核医学診療を行うことが不可能であった。
     我国の放射線技術に関わる法令を定める場合には、放射線審議会において技術的内容が審議され、妥当性を評価される必要があり、主管する省庁の諮問を受け専門家による審議の結果、答申を得て改正される。
     今回、農林水産省は獣医療法施行規則および関連告示の改正等により、高度放射線診療を実施する際の放射線障害の防止に関する技術的基準について諮問し、放射線審議会では主に核医学診療について審議された。審議は放射性同位元素を含む動物の管理区域からの退出を伴うものが対象とされ使用される核種については、安全管理体制を整備する上で、@有用性が高く需要が多いこと、A取扱いが比較的容易なこと、を念頭に行われた。
     農林水産省は、米国の獣医放射線診療の規制法令である米国連邦規則(NRC)や米国放射線審議測定委員会(NCRP)、及び欧州、特に英国の医学における物理工学協会(IPEM)等の文献により法令の枠組み、及び諸外国の獣医療系大学等の院内規則や手順書の実情を調査し、また、我国の獣医系大学にアンケート調査をした。これらのことを踏まえ日本の獣医療で実施する放射線診療のうち放射性同位元素を含む管理区域からの退出を伴うものについては、@馬における99mTcを用いた骨シンチグラフィー、A犬、猫における99mTc製材を用いた各種シンチグラフィー、B犬、猫における18F(FDG)を用いた陽電子断層撮影検査の「核医学検査」に限定した。
     今回の改正は、放射線診療を行う上での施設基準、安全管理体制及び教育訓練、放射線診療従事者や飼育者及び一般公衆の被ばく防止、飼育動物の退出基準、診療に伴う獣医診療用放射性汚染物の処理・処分等の放射線防護と安全使用の要件が放射線障害防止法と同等の厳しい要件となっている。
     獣医療法施行規則に規定された要件は、実験用動物等に適用されるものではなく、あくまで放射線医学診療に限定して適用されるものであることと、実験用動物への放射性同位元素の使用又は飼育動物への薬事法上未承認の放射性薬剤の使用等は別途、放射性障害防止法の適用を受けることに留意する必要がある。




(2)施設基準

 獣医核医学検査を実施する診療施設を開設する場合には、獣医療法第3条の規定に基づき、開設者は開設日から10日以内に所在地を管轄する都道府県知事あてに届け出なければならない。また、当該施設の構造設備や開設時に届け出た核種及び年間最大使用予定数量等の変更をする場合も同様である。核医学診療施設は、獣医療法施行規則及び局長通知に定められた基準に適合したものでなければならない。

    1)管理区域

     獣医核医学検査を行う管理区域の設定は、放射線障害防止法や医療法と同様に、次の条件を満たす必要がある。

    1. 外部放射線の線量については、実効線量が3月間につき、1.3 mSv以下にすること。
    2. 管理区域内の空気中の放射性同位元素濃度については、3月間についての平均濃度が空気中の濃度限度の1/10以下にすること。
    3. 放射性同位元素で汚染された装置、床等の表面の放射性同位元素の密度については、表面密度限度値の1/10以下にすること。
      ・汚染の拡大を防止する意味で、診療用放射性同位元素使用室、陽電子断層撮影診療用放射性同位元素使用室、貯蔵施設、廃棄施設内の人が触れる物の放射性同位元素の濃度が表面密度限度値以下にすること。
    4. 1及び2に関わらず、外部放射線に被ばくするおそれがあり、かつ、空気中の放射性同位元素を吸入摂取するおそれがある場合は、1と2の割合の和が1となるように実効線量及び空気中の放射性同位元素の濃度以下にすること。


    2)診療用放射性同位元素及び陽電子断層撮影診療用放射性同位元素の使用室

     診療用放射性同位元素使z用室及び陽電子断層撮影診療用放射性同位元素使用室は、人が常時立入る場所の実効線量が1週間につき1mSv以下になるようしゃへい物(壁)を設けることとされている。
      排気・排水に関しては、獣医療法施行規則の数量告示に記述された濃度限度以下とする能力を有する排気・排水設備によって処分すること。  
     また、診療用放射性同位元素使用室及び陽電子断層撮影診療用放射性同位元素使用室の各室内には汚染除去のための洗浄設備を設けること。

      a.診療用放射性同位元素使用室の構造設備基準

      1. 使用室が火災により近隣を汚染することを防止するため、主要構造部等は耐火構造又は不燃材料を用いた構造とすること。
      2. 使用室内には、診療用放射性同位元素の小分け、分注、調剤を行う室「放射性同位元素準備室」を設けること。
        使用室内には、飼育動物に診療用放射性同位元素を投与する室及び撮像を行う室「診療室」を設けること。
        使用室内には、診療用放射性同位元素を用いて診療を受けている飼育動物を収容する室「放射性同位元素使用室内収容室」を設けること。
        ただし、適切な放射線防護のためのしゃへい衝立等の措置を講じた場合には、収容室内で診療用放射性同位元素を投与することができる。
        ・ 準備室、診療室及び収容室の画壁は、放射性同位元素によって汚染された空気や水溶液等から診療室の汚染を防止するためのものである。
      3. 獣医療法施行規則では、「人が常時立入る場所において人が被ばくするおそれのある線量について、実効線量が1週間につき、1ミリシーベルト以下とするために必要なしゃへい壁その他のしゃへい物を設けること」としている。線量測定を行う場合は1週間等の一定期間の積算線量を測定することが望ましく、線量測定が困難な場合には使用実態を考慮、通常使用による1時間当りの線量率を測定し、労働基準法の1日労働時間8時間に5日を乗じて計算しても良い(ただし、測定が困難な場合とは、@構造上、測定器が入らず測定できない、A電磁波の影響により測定器が正常に稼動しない等である)。
        なお、核医学診療で吸収補正を行う場合の線量率の測定は、通常の使用状態での場所に吸収補正用線源が存在する状態で実施すること。
      4. 診療用放射性同位元素使用室には、標識を付すこと。
      5. 診療用放射性同位元素使用室の内部の壁、床その他放射性同位元素によって汚染されるおそれのある部分は、突起物、くぼみ及び仕上材の目地等の隙間の少ないものとすること。 
      6. 内部の壁、床その他放射性同位元素によって汚染されるおそれのある部分の表面は、平滑であり、気体又は液体が浸透しにくく、かつ、腐食しにくい材料で仕上げること。
      7. 「出入口の付近に放射性同位元素による汚染の検査に必要な放射線測定器、放射性同位元素による汚染除去に必要な器材及び洗浄設備並びに更衣設備を設けること」と獣医療法施行規則に記述されている。局長通知において「汚染検査場所」とは、 1)人の汚染検査をする場所、2)飼育動物の汚染検査する場所、の2つを設けることとしている。
      8. 診療用放射性同位元素使用室内の各室には、「洗浄設備を設け、洗浄された液体を流す管は排水設備に連結すること」としている。
         具体的には、準備室、診療室、収容室及び汚染検査する場所には、洗浄設備を設けること。
      9. 診療室及び放射性同位元素使用室内収容室には、通気口を設け排気設備に連絡すること。排気設備とは、排風機、排気浄化装置、排気管、排気口等、気体状の獣医療用放射性汚染物を排気し、又は浄化する一連の設備をいう。
         ただし、作業の性質上排気設備を設けることが困難な場合であって、気体状の放射性同位元素を発生し、又は放射性同位元素によって空気を汚染するおそれのないときは、排気設備を設ける必要はない。
      10. 準備室にフード、グローボックス等の装置が設置されている場合には、その装置は10の基準に適合する排気設備に連結すること。
      11. 診療用放射性同位元素の使用に際し、適時、放射線測定器を用いて測定を行うことで、診療用放射性同位元素からの汚染状況を確認すること。

      b.陽電子断層撮影診療用放射性同位元素使用室の構造設備基準

      基本的には、診療用放射性同位元素使用室の基準とほぼ同様である。

      1. 使用室が火災等により近隣を汚染することを防止するため、主要構造部等は耐火構造又は不燃材料を用いた構造とすること。
      2. 使用室内には、陽電子断層撮影診療用放射性同位元素の小分け、分注、調剤を行う室「陽電子準備室」を設けること。
        使用室内には、飼育動物に陽電子断層撮影診療用放射性同位元素を投与する室及び撮像を行う室「陽電子診療室」を設けること。
        使用室内には、陽電子断層撮影診療用放射性同位元素を用いて診療を受けている飼育動物を収容する室「陽電子収容室」設けること。ただし、適切な放射線防護措置を講じた場合には、陽電子収容室内で陽電子断層撮影診療用放射性同位元素を投与することができる。
        ・ 陽電子準備室、陽電子診療室及び陽電子収容室の画壁は、陽電子断層撮影診療用放射性同位元素によって汚染された空気や水溶液等からの汚染を防止するためのものである。
        ・ 区分した1つの陽電子診療室に複数の陽電子断層撮影装置を設置してはならない。
      3. 獣医療法施行規則では、「人が常時立入る場所におけて人が被ばくするおそれのある線量について、実効線量が1週間につき、1ミリシーベルト以下とするために必要なしゃへい壁その他のしゃへい物を設けること」としている。線量測定を行う場合は1週間等の一定期間の積算線量を測定することが望ましく、線量測定が困難な場合には、使用実態を考慮、通常使用による1時間当たりの線量率を測定し、労働基準法の1日労働時間8時間に5日を乗じて計算してもよい(ただし、困難な場合とは、1) 構造上、測定器が入らず測定できない、2) 電磁波の影響により測定器が正常に稼動しない等)。
        なお、吸収補正を行う場合の線量率の測定は、通常の使用状態での場所に吸収補正用線源が存在する状態で実施すること。
      4. 陽電子断層撮影放射性同位元素使用室には、標識を付すこと。
      5. 陽電子断層撮影診療用放射性同位元素が投与された飼育動物と放射線診療従事者とが、至近距離において接する時間を可能な限り少なくするために、操作室を別に設けるように規制されている。「操作する場所」とは、陽電子断層撮影装置と画壁等で区画された室をいう。
      6. 陽電子断層撮影診療用放射性同位元素使用室の内部の壁、床その他陽電子断層撮影診療用放射性同位元素によって汚染されるおそれのある部分は、突起物、くぼみ及び仕上材の目地等の隙間の少ないものとすること。
      7. 内部の壁、床その他陽電子断層撮影診療用放射性同位元素によって汚染されるおそれのある部分の表面は平滑であり、気体又は液体が浸透しにくく、かつ、腐食しにくい材料で仕上ること。
      8. 「出入口の付近に陽電子断層撮影診療用放射性同位元素による汚染の検査に必要な放射線測定器、陽電子断層撮影診療用放射性同位元素による汚染除去に必要な器材及び洗浄設備並びに更衣設備を設けること」と獣医療法施行規則に記述されている。局長通知では「汚染検査する場所」とは、1)人の汚染検査する場所,2)飼育動物の汚染検査する場所、の2つを設けることとしている。
      9. 陽電子断層撮影診療用放射性同位元素使用室内の各室には「洗浄設備を設け、洗浄された液体を流す排水管が排水設備に連結すること」としている。
        具体的には、陽電子準備室、陽電子診療室、陽電子収容室及び汚染検査する場所には、洗浄設備を設けることとしている。
      10. 診療室及び陽電子断層撮影診療用放射性同位元素使用室には、通気口を設けること。排気設備とは排風機、排気浄化装置、排気管、排気口等、気体状の獣医療用放射性汚染物を排気し、又は浄化する一連の設備をいう。
        ただし、作業の性質上排気設備を設けることが困難な場合であって、気体状の陽電子断層撮影用放射性同位元素を発生し、又は陽電子断層撮影診療用放射性同位元素によって空気を汚染するおそれのない場合は、この限りでない。
      11. 陽電子準備室にフード、グローボックス等の装置が設置されている場合には、その装置は10の基準に適合する排気設備に連結すること。
      12. 陽電子断層撮影診療用放射性同位元素の使用に際し、適時、放射線測定器を用いて測定を行うことが、陽電子断層撮影診療用放射性同位元素からの汚染状況を確認するため義務付けられている。


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