(5)飼育者及び一般公衆の放射線防護
診療用放射性同位元素及び陽電子断層撮影診療用放射性同位元素を用いて核医学診療を行った飼育動物は、飼育者や一般公衆の被ばくを考慮して退出基準が定められている。
獣医療法施行規則では、第10条の4に「飼育動物の収容制限」が記述されており、第4項に診療施設の管理者は退出を認めた場合には、以下の事項を記録し、3年間保存しなければならないとしている。
その内容は、
- 診療用放射性同位元素及び陽電子断層撮影診療用放射性同位元素を投与された場合の核種、ベクレル単位による投与量及び投与日時
- 飼育動物の退出の日時
- 放射線同位元素による汚染の有無及び汚染が認められた場合にあっては、その汚染除去の概要
この退出基準は、獣医療法施行規則第10条の4第3項により農林水産大臣の定める基準が告示第○○号に記述されている。
飼育動物の種類 |
放射性同位元素の種類 |
診療の種類 |
退出基準 |
馬 |
テクネチウム99m |
骨シンチグラフィー |
投与後48時間以上 |
犬及び猫 |
テクネチウム99m |
各種シンチグラフィー |
150MBq以下の投与の場合、24時間以上150MBqを超える投与の場合、48時間以上 |
犬及び猫 |
フッ素18 |
陽電子断層撮影診療用放射性同位元素を用いた陽電子断層撮影検査 |
投与後24時間以上 |
退出基準は、放射線審議会で飼育者及び一般公衆への被ばく線量評価が審議され、飼育者や一般公衆に対してICRP等の一番厳しい放射線防護基準である「抑制すべき線量基準」を超えることがないと結論され、安全であると結論された。
*参照;放射線審議会「獣医療に関する放射線防護の技術的基準検討部会資料」
(6)放射性医薬品を用いた診療に伴う廃棄物
放射性医薬品を用いた獣医核医学診療から排出される獣医療用放射性廃棄物には、液体状、気体状、固体状の放射性廃棄物(「獣医療用放射性汚染物」と定義)として大きく3つに分類することができる。
獣医療法施行規則第6条の11では、診療用放射性同位元素及び陽電子断層撮影診療用放射性同位元素又は放射性同位元素によって汚染された獣医療用放射性汚染物を廃棄する施設(「廃棄施設」と定義)の構造設備の基準を定めている。
1)液体状の獣医療用放射性汚染物 獣医療法施行規則及び局長通知に定められた排水管、排液処理槽その他液体状の獣医療用放射性汚染物を排水し、又は浄化する場合には下記の事項に従った一連の設備を設けること。
- 排水口における排液中の放射性同位元素の濃度を告示別表に記述された濃度限度以下にする能力又は排水監視設備を設け、排水中の放射性同位元素の濃度を監視することで、診療施設の境界における排水中の濃度を告示別表の規定された濃度以下として排水することができる。
- 排水設備の構造は、排液が漏れにくい構造とし、排液が浸透しにくく、かつ、腐食しにくい材料を用いること。
- 排液処理槽は、液体を採取して濃度測定ができる構造とし、かつ、液体の流出量を調整する装置を設けること。
- 排液処理槽の上部の開口部は、ふたのできる構造とするか、又はさく、その他の周囲に人がみだりに立ち入らないようにするための設備を設けること。
- 排水管及び排液処理槽には、排水設備である旨を示す標識を付すこと。
- 診療施設の管理者は、下記に示す帳簿を備え、獣医療用放射性汚染物の廃棄に関わる帳簿を1年ごとに閉鎖し、閉鎖後5年間保存しなければならない。
@廃棄の年月日
A廃棄に係る診療用放射性同位元素又は陽電子断層撮影診療用放射性同位元素によって汚染された物の種類及びベクレル単位を持って表した数量
B廃棄に従事した者の氏名及び廃棄方法及び場所
2)気体状の獣医療用放射性汚染物 獣医療法施行規則及び局長通知では、気体状の獣医療用放射性汚染物を処理する場合は次の定めるところにより、排風機、排気浄化装置、排気管、排気口等の一連の排気設備を設置し、下記の事項を遵守する事と規定されている。
- 排気口における排気中の放射性同位元素の濃度を告示別表に記述された濃度限度以下にする能力又は排気監視施設を設けて排気中の放射性同位元素の濃度を監視することにより、診療施設の境界の外の空気中の放射性同位元素の濃度を告示別表の濃度限度値以下として排気することができる。
- 人が常時立入る場所における空気中の放射性同位元素の濃度を、告示別表の濃度以下とする能力を有すること。
- 気体の漏れにくい構造とし、腐食しにくい材料を用いること。
- 故障が生じた場合には、放射性同位元素によって汚染された物の広がりを急速に防止する事ができる装置を設けること。
- 排気浄化装置、排気管、及び排気口には、排気設備である旨を示す標識を付すこと。
- 獣医療用放射性汚染物を焼却する場合には、別途規定に従って処理すること。
- 排気施設の構造は、気体が漏れにくい構造とし、排気が浸透しにくく、かつ、腐食しにくい材料を用いること。
- 準備室等にフードやグローボックスを設置した場合には、その装置が排気設備に連結していること。
- 診療施設の管理者は、下記に示す帳簿を備え、気体状の獣医療用汚染物の排気に係る帳簿を1年ごとに閉鎖し、閉鎖後5年間保存しなければならない。
@排気の年月日
A排気に係る診療用放射性同位元素及び陽電子断層撮影診療用放射性同位元素によって汚染された物の種類及びベクレル単位をもって表した量。
B排気に従事した者の氏名並びに排気方法及び場所。
3)固体状の獣医療用放射性汚染物 放射性医薬品を用いた獣医核医学診療から排出される固体状の獣医用放射性汚染物は、局長通知により2種類に分類される。
- 固体状の獣医療用放射性汚染物のうち、診療用放射性同位元素及び陽電子断層撮影診療用放射性同位元素で汚染された物(具体的には注射器、バイアル、ゴム手袋等)。
- 診療用放射性同位元素及び陽電子断層撮影診療用放射性同位元素を投与された飼育動物からの排泄物等で汚染された物(具体的には馬で使用される敷きわら、犬又は猫で使用された飼育動物用シーツ等)がある。
- 1 については3つの方法がある、規則第6条の11第1項第5号(@獣医療用放射性汚染物を焼却する場合には、次に掲げる設備を設けること)又は規則第6条の11第1項第6号(A獣医療用放射性汚染物を保管廃棄する場合)に定める保管廃棄設備で保管、又は規則第10条の2の規定に基づき、B農林水産大臣が指定した廃棄業者への委託によって処分を行う。
- 2 については、規則第6条の11第1項第5号又は規則第6条の11第1項第6号に定める保管廃棄設備での保管によって処理を行う。
- 規則第6条の11第1項第2号(人が常時立入る場所において人が被ばくするおそれのある線量について、実効線量が1週間につき1ミリシーベルト以下にするために必要なしゃへい壁、その他のしゃへい物を設けること)は、廃棄施設において、人が常時立入る場所のしゃへい物による防護は、1週間当りの実効線量とすること。保管廃棄設備の継続的に放射能を放出するものについてはその防護に留意することとしている。
- 規則第6条の11第1項第6号(獣医療用放射性汚染物を保管する場合)の保管廃棄設備の基準は、@外部と区画された構造、A設備の扉、ふた等外部に通ずる分部には、かぎその他閉鎖のための設備又は器具を備えること、B第6条の9第8号(貯蔵施設には、法令に適合する貯蔵容器を備えること。・貯蔵容器は気密な構造、・こぼれにくい、かつ液体が浸透しにくい材料、・当該容器には保管廃棄施設である旨を示す標識を付す)
- 保管廃棄設備である旨を示す標識を付すこと。
特例の措置:陽電子断層撮影診療用放射性同位元素を用いた診療から排出する獣医療用放射性汚染物の取扱い 農林水産大臣の定める種類ごとにその1日最大使用予定数量が農林水産大臣の定める数量以下であるものに限る(農林水産省告示第○○号)陽電子断層撮影診療用放射性同位元素によって汚染された物を保管廃棄する場合には、陽電子断層撮影診療用放射性同位元素又は陽電子断層撮影診療用放射性同位元素によって汚染された物以外の物が混入し、又は付着しないように封及び表示をし、当該陽電子断層撮影診療用放射性同位元素の原子数が、1を下回ることが確実な期間として農林水産大臣が定める期間(7日間)を超えて管理区域において行うこと。
種類 |
数量 |
炭素11 |
1テラベクレル |
窒素13 |
1テラベクレル |
酸素15 |
1テラベクレル |
フッ素18 |
5テラベクレル |
上記のように保管廃棄する陽電子断層撮影診療用放射性同位元素又は陽電子断層撮影診療用放射性同位元素により汚染された物については、陽電子断層撮影診療用放射性同位元素又は陽電子断層撮影診療用放射性同位元素により汚染された物でない物として処分することができる。
なお、実際に獣医療用放射性汚染物を処理・処分する場合には、獣医学会より提案された「獣医核医学診療に伴う固体状の獣医療用放射性汚染物の処理に関するガイドライン・マニュアル」及び「陽電子断層撮影用放射性医薬品を用いた獣医核医学診療に伴い発生する固体状の獣医療用放射性廃棄物の収集保管と処分に関する手順書」を参照すること。
(7)実効線量及び等価線量を求める方法と放射線の測定にかかわる量
1)線量測定等(規則第14条) 実効線量とは、人体が放射線に被ばくした場合に、吸収線量つまり人体が吸収したエネルギーの総量は同じであっても、放射線の種類や被ばくした臓器・組織・器官の種類によってその生物学的影響は異なる。実効線量とは、放射線防護の目的から放射線の人体に対する影響の程度を考慮して定められた実用的な単位である。この線量単位で表せば、条件の異なる放射線被ばくの人体に対する危険度の目安となる。
等価線量とは、人体の各臓器・組織・器官が不均等の放射線被ばくを受けた場合に、臓器・組織・器官に対する被ばくの影響を考慮した吸収線量を等価線量という。
法令に記述される放射線防護上の線量は、外部被ばくによる線量と内部被ばくによる線量を分けて測定し、それらの線量の和を持って実効線量という。
また、等価線量とは不均等被ばくであるため、部位別(眼の水晶体、皮膚、その他)に測定される線量である。
- 獣医療法施行規則第14条第5項に規定される「内部被ばくによる線量測定は、放射性同位元素を誤って吸入摂取し、又は経口摂取した場合にはその都度、診療用放射性同位元素使用室、陽電子断層撮影診療用放射性同位元素使用室その他放射性同位元素を吸入摂取し、又は経口摂取するおそれのある場所に立ち入る場合には3月を超えない期間ごとに1回(妊娠中である女子にあっては、本人の申出等により診療施設の管理者が妊娠の事実を知った時から出産までの間1月を超えない期間ごとに1回)、農林水産大臣の定めるところにより行うこと」としている。
2)算定方法
外部被ばく及び内部被ばくによる実効線量や等価線量の算定方法は、別途、農林水産省の告示第○○号に記述されている。
一般的な外部被ばくの算定方法は、@実測した場合、A計算により算出した場合があるが、計算により外部被ばくを求める場合には
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放射線源の量(MBq)×核種の1センチメートル線量率
定数×被ばく時間(時間)÷線源からの距離の2乗
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内部被ばくの算定方法は、農林水産省の告示に基づき、
E=e×I Eは、内部被ばくによる実効線量
eは、獣医療法施行規則別表第1の第1欄に記述された放射性同位元素の種類に応じて、それぞれ、吸入摂取の場合には、同表の第2欄、経口摂取の場合には、同表の第3欄に記述された実効線量係数(mSv/Bq)
I は、吸入摂取又は経口摂取した放射性同位元素の摂取量(Bq)
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