放射線防護技術編
▲ メニューへ戻る
獣医診療現場における放射線防護の実際

1. 放射線防護の3原則

  1. 放射性医薬品の発注と受け取り
     放射性医薬品を放射性医薬品製造会社に発注します。放射性医薬品が到着したら、内容物と受領書を確認 し、さらに放射線の漏洩がないか線量測定を実施します(図10)。放射性医薬品は開封せず、専用運搬鉛容 器に入れたまま調剤室まで運搬します。
    図10 放射線医薬品の受け取りと線量測定
  2. 使用する放射性医薬品の開封、調剤、分注作業
     馬の骨シンチグラフィー検査法では、放射性医薬品として99mTc-methylene diphosphonate(99mTc-MDP)も しくは99mTc-hydroxymethylene diphosphonate(99mTc-HMDP)を使用します。投与量は7-11MBq/kg(体重500 kg の成馬では3.5〜5.5GBq)です。放射性医薬品の開封や調剤等の作業は、放射線管理区域である調剤室 で実施します。以降、放射線医薬品を取り扱う際は、手指への汚染を防止するため、必ず使い捨ての手袋を 着用します。放射性医薬品には製造業者で既に調製された99mTc注射液、もしくは99Mo−99mTcジェネレータ ーから溶出される99mTcと標識調製キットにより作製するものがあります(図11)。これら薬剤からは高線量 のガンマ線が放出されていますが、この段階の作業が核医学検査を実施する中で最も被ばく線量が多くなり ますので、細心の注意が必要です。既に調整された製剤であれば、製造業者が保証した線量から投与量を計 算し、遮蔽シールドの中でシリンジに吸引します。鉛製シリンジシールドに装着し、鉛でシールドされた運 搬用のキャリーケースに入れます。
    図11 放射性医薬品の投与量と99mTc 注射液・ジェネレーター
  3. 放射性医薬品の投与
     キャリーケースに入った放射性医薬品を馬房に運搬します。投与は被ばくを最小限にとどめるため、速や かに実施するよう心掛けます。また、皮下への漏洩を防止するため、静脈留置カテーテルを通して投与し (図12)、最後はカテーテル内に放射性医薬品が残存しないようにヘパリン加生理食塩水で十分にフラッシ ュします。放射性医薬品が全身に分布したことを確認するため、サーベイメーターにより放射線量を確認し ます(図12)。一旦、放射性医薬品が投与されると、馬は放射線の線源となりますので、馬への接触は最小 限にし、接近するとしても1m以上の距離を保つようにします。放射性医薬品投与後は退出基準で定めら れている48時間後まで管理区域から出すことはできません。検査までの間、馬は馬房で待機させます。
    図12 放射性医薬品の投与と線量測定
  4. 利尿剤の投与
     99mTc は腎臓を経由し、膀胱内に集積しますが、これは骨盤のスキャンにおいて大きなアーティファクト になります。また、検査中の排尿により下肢部の皮膚が99mTc に汚染されると、これもアーティファクトに なります。そこで、利尿剤をスキャン開始前に投与し膀胱内の99mTc を排出させます。
  5. シンチレーションカメラ
     シンチレーションカメラは、明瞭な画像を得るために、一定方向のガンマ線のみを通過させるコリメータ、 ガンマ線を光に変えるシンチレーター、そしてその位置と強さを電気信号に変える光電子倍増管で構成され ています。コリメータはX 線検査の際に使用するグリッドのようなもので、その構造は鉛による格子とな っており、必要なガンマ線のみを選択しています。核種、感度、捉える視野により様々なタイプが存在して います。ちなみに、馬の骨シンチグラフィー検査の場合、平行孔コリメータの低エネルギー型が主に用いら れています(図13)
    図13 シンチレーションカメラの構造
  6. 撮影
     放射線医薬品投与後、2〜3時間で撮影を開始します。馬にシンチレーションカメラを接近させ、必要な ガンマ線のカウント数(1cuあたり200〜300カウント)が得られるまで撮影します。撮影時間は部位によ り異なりますが、概ね60秒間です。この間、馬の体動があると診断価値のある画像が得られないばかりか、 状況によっては機械の破損や馬の怪我にもつながるため、十分な鎮静処置を施します。体動を起こさない確 実な保定は、診断可能な画像を得るためには不可欠です。これにより再撮影を減らすことができ、検査時間 の大幅な短縮が可能となることから、保定技術は本検査を実施する上で最も重要なファクターです(図14)。
     撮影は基本的に側方向と背腹方向で実施しますが、頭部、椎体および骨盤では斜位方向からも実施します。 ただし、下肢部領域は、シンチレーションカメラの辺縁部がガンマ線を検出できないため、撮影は不可能で す。そのため、肢を台に載せたり、床にカメラ収納スペースを設けるような手法がとられています。骨シン チグラフィーは基本的に対側肢との比較により評価するため、対側肢のスキャンは必須です。
  7. 検査後の管理(管理区域内の馬房内に繋留)
     放射性医薬品を投与した馬は投与後48時間、管理区域から退出することができません。その間、馬房へ の立ち入りは飼養等を除いて原則として制限されます。
     馬には僅かではありますが放射性物質が残留しているため、馬を扱う際は防護衣や使い捨ての手袋、専用 の履物を着用しなければなりません。また、馬との距離はできるだけ離れ、短時間で作業してください。
  8. 退院(管理区域からの退出)
     馬を動物汚染検査室に移動させ、馬の体幹部から1mの距離で線量を測定し記録します。馬はシャワー で全身を洗浄してから退院させます。また、検査した馬を担当する厩舎関係者に対して、注意事項を口頭で 説明し、指示書を渡します。退院後は通常通りの飼育が可能です。
    図14 撮影風景とカウント数


Go Back  3/4  Go Next